預言の声聖書講座 第2部 第2課

 私たちはだれでも将来に対して、ある程度の見通しがなければ、生活していくことはできません。しかし聖書には「あなたがたは、あすのこともわからぬ身なのだ」(ヤコブの手紙4章14節)とあり、私たちにとって将来を見ることはたやすいことではありません、しかし神は「わたしは終りの事を初めから告げ、まだなされない事を昔から告げて言う」(イザヤ書46章10節)といわれます。これを神の予知といい、神は先のことを時間の壁をこえてお知りになることができるのです。

 神は人間に将来起こるべきことを、前もってお知らせになりました。これを預言といいます。

 世の中が不安定になると人々は、先のことを心配して易者にきいたり、星占いに走ったりします。方位を気にしたり、心霊術の予言に耳をかたむける人も多くなっています。聖書の預言はこのような予言とはちがった性質のものです。この課では聖書の預言の意昧と、その目的について学び、世界の将来を示している預言を研究してみたいと思います。

1.預言の与えられた目的

アモス書3章7節に「まことに主なる神はそのしもべである預言者にその隠れた事を示さないでは、何事をもなされない」とあリます。神は人間の運命にかかわる大事な事柄は必ず前もって示してくださいます。その理由を考えてみますと、

(1)まず神は預言を通して将来を示してくださるので、神の計画がわかります。したがって私たちがその中でいかに生きていくべきかを知ることができるのです。 神の計画にそって生きていくことは人間の正しい生き方です。

(2)預言は来るべき出来事を予告するとともに、それに対してなすべき準備を示します。マタイによる福音書24章15節から20節までにキリストはエルサレムの滅亡について預言なさいました。

「預言者ダニエルによって言われた荒らす僧むべき者が、聖なる場所に立つのを見たならば(読者よ、悟れ)、そのとき、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。屋上にいる者は、家からものを取リ出そうとして下におりるな。畑にいる者は、上着を取りにあとへもどるな。その日には、身重の女と乳飲み子をもつ女とは、不幸である。あなたがたの逃げるのが、冬または安息日にならないように祈れ」。

 紀元70年にローマの軍隊がエルサレムを攻めた時この指示に従って逃げた人々は、その悲惨な滅亡からのがれることができたのです。

(3)預言は過去から未来に至る歴史の流れを示しますから、預言を学ぶことにより正しい世界観をもち、私たちの存在の立場や意義を理解することができます。

(4)過去に成就した預言を学ぶことによって、神の言葉に対する信頼を強めることができます。キリストは「そのことがまだ起こらない今のうちに、あなたがたに言っておく。いよいよ事が起きたとき、わたしがそれであることを、あなたがたが信じるためである」(ヨハネによる福音書13章19節)といわれました。聖書には多くの預言があリます。次に世界の将来を示す預言の一つについて考えてみたいと思います。

2.ネブカデネザルの夢 

 人類の歴史の記録をみると世界の諸国民の発展や、民族の興亡は、人間の意志や計画によって左右されているようにみえます。しかし聖書は人間の利害や欲望、権力などをこえて、歴史の背後に神の手が働いていることを示しています。

 今から2600年近く前に、当時の世界的な大帝国バビロン(新バビロニヤ)の王ネブカデネザルは、ある晩夢を見て深い印象をうけたのですが、朝になってその夢の内容を忘れてしまいました。そこで宮廷に仕えていた学者や占い師たちを召し集めて、その夢の解き明かしをするように命じました。しかし夢がわからないで解き明かしをせよというのは無理な命令で、だれも答えることはできなかったのです。王は怒って全国の学者や占い師たちを全部殺すように命じました。

 その当時政府の学識経験者のうちに、ユダヤの国を攻略した時、王が捕虜としてつれてきていた信仰の厚い、優秀な4人の青年がいました。その1人ダニエルは、この王の命令を聞いて、しばらく時が与えられるように王に願い、3人の友だちと熱心に神に祈りました(ダニエル書2章17節−19節)。なにか人生のむずかしい問題にぶつかったときは、熱心に神に祈ることです。神は彼らの祈りにこたえ、王の夢とその意味を教えてくださいました。ダニエルは直ちにそのことを王に告げました。「王よ、あなたは一つの大いなる像が、あなたの前に立っているのを見られました。その像は大きく、非常に光り輝いて、恐ろしい外観をもっていました。その像の頭は純金、胸と両腕とは銀、腹と、ももとは青銅、すねは鉄、足の一部は鉄、一部は粘土です。あなたが見ておられたとき、一つの石が人手によらずに切り出されて、その像の鉄と粘土との足を撃ち、これを砕きました。こうして鉄と、粘土と、青鍋と、銀と、金とはみな共に砕けて、夏の打ち場のもみがらのようになリ、風に吹き払われて、あとかたもなくなりました。ところがその像を撃った石は、大きな山となって全地に満ちました」(ダニエル書2章31節−35節)。つづいてダニエルはこの夢の解き明かしを述べると、王は非常に満足し、「あなたがこの秘密をあらわすことができたのを見ると、まことに、あなたがたの神は神々の神、王たちの王であって、秘密をあらわされるかただ」(ダニエル書2章47節)といい全能の神の前にひれ伏したのです。

3.夢の解き明かし

 この夢の中の像は、バビロンの時代から人類歴史の終末に至るまでの、歴史の慨観を示していました。

(1)金の頭−バビロン(新バビロニヤ帝国)紀元前605−539年 

 まず金の頭についてダニエルは、「王よ、あなたは諸王の王であって、天の神はあなたに国と力と勢いと栄えとを賜い、・・・あなたはあの金の頭です」(ダニエル書2章37節、38節)といいました。首都バビロンは古代に最も栄えた都で、城壁は高く難攻不落と考えられ、オリエント世界の政治・文化の一大中心地でした。しかし預言によればバビロンがいつまでも世界に君臨するのではなかったのです。その詳細な預言は、イザヤ書44章27節、28節と同書45章の1節−3節にしるされています。「また淵については、『かわけ、わたしはあなたのもろもろの川を干す』と言い、またクロスについては、『彼はわが牧者、わが目的をことごとくなし遂げる』・・・」「わたしはわが受膏者クロスの右の手をとって、もろもろの国をその前に従わせ、もろもろの王の腰を解き、とびらをその前に開かせて、門を閉じさせない。・・・わたしはあなたの前に行って、もろもろの山を平らにし、青銅のとびらをこわし、鉄の貫の木を断ち切リ、・・・イスラエルの神であることをあなたに知らせよう」と。

 この預言はバビロンを攻め落とした名将軍クロスが生まれる約150年も前になされたものです。当人がまだ生まれないうちから、名前をあげ、また彼がどんな戦略を用いて攻め落とすかまで予告してありました。歴史によれば、彼はバヒロン城を貫流するユフラテ川の水を、人工的に造った湖水に導き、乾いた川底に兵を入れて城壁をくぐらせたとのことです。これは夜中を利用して実施された作戦ですが、当夜はバビロンのお祭りであったため、全市は飲めよ歌えよの大さわぎを演じていました。そのため川岸にあった青銅の門の固めも十分でなく、クロスの部下はたやすく侵入してしまいました。こうしてバビロン帝国は一夜のうちに減び去ったのです。

(2)銀の胸と両腕−メド・ペルシャ

(メディヤとペルシャの運合国)紀元前539−331年

 「あなたの後にあなたに劣る一つの国が起こります」(ダニエル書2章39節)。バビロンを滅ぼしたのは、クロス王にひきいられたメディヤとペルシャの連合国でした。この国はオリエント世界を統一して空前の大帝国をつくリましたが、バビロンのようには繁栄せず、銀であらわされるにふさわしい国でした。

(3)青銅の腹ともも−ギリシャ(マケドニヤ帝国)紀元前331−168年

 「また第3に青銅の国が起って、全世界を冶めるようになリます」(ダニエル書2章39節)。この第3の国はアレキサンダーを王とするギリシャでした。紀元前331年のアルベラの戦いでベルシャ軍を壊滅させました。

(4)鉄のすね−ローマ帝国 紀元前168−紀元476年

「第4の国は鉄のように強いでしょう。鉄はよくすべての物をこわし砕くからです。鉄がこれらをことごとく打ち砕くように、その国はこわし砕くでしょう」(ダニエル書2章40節)。ギリシャの次に世界を支配したのは鉄のように強いローマでした。イギリスの歴吏家ギボンもローマを「鉄の国」といったのは興味あることです。

(5)鉄と粘土の足−分裂した国々

「あなたはその足と足の指を見られましたが、その一部は陶器師の粘土、一部は鉄であったので、それは分裂した国をさします。しかしあなたが鉄と粘土との混じったのを見られたように、その国には鉄の強さがあるでしょう。その足の指の一部は鉄、一部は粘土であったように、その国は一部は強く、一部はもろいでしょう。あなたが鉄と粘土との混じったのを見られたように、それらは婚姻によって、互に混ざるでしょう。しかし鉄と粘土とは相混じらないように、かれとこれと相合することはありません」(ダニエル書2章41節−43節)。

 ローマ帝国のあとにくるのは分裂した国々です。西洋史をみるとローマは紀元4世紀から5世紀のあいだに、帝国領土内に、独自の権力を持ったゲルマン人の王国がいくつか成立し、ローマは分裂しました。それらの王国はやがて今日のヨーロッパ諸国になってきたのですが、これらの国は鉄と粘土のように強い国もあれば弱い国もあリ、現在に至るまで分裂した状態です。「鉄と粘土とは相混じらないように、かれとこれと相合することはあリません」とダニエルはいいました。その後いく度か統一がくわだてられましたが失敗に終わっています。カール大帝、カール5世、ナポレオン、カイゼルそしてヒトラーなどはこのような試みをして失敗した人々です。人間の力で神の言葉をかえることはできません。またヨーロッパの再統一が各王室間の婚姻政策によって試みられましたがこれも成功しませんでした。婚姻によってまじっても、「かれとこれと相合することはありません」と聖書は断言しているのです。

(6)第5の王国−永遠に至る神の国

 「それらの王たちの世に、天の神は一つの国を立てられます。これはいつまでも滅びることがなく、その主権は他の民にわたされず、かえってこれらのもろもろの国を打ち破って滅ぼすでしょう。そしてこの国は立って永遠に至るのです」(ダニエル書2章44節〕。私たちは今分裂した国々の時代に生存しています。このあとにくるものは何か、問題の多いこの世界はどうなっていくのかということをこの預言は述べているのです。次にくるものは、神自らおたてになる国で、前に学んだように、神が支配なさる栄光の国です。神は罪悪に満ちたすべての国を滅ぼし、永遠につづく神の国をおたてになるのです。これが本当の意味の理想杜会の出現です。どんなに栄えていても、どんなに強大であっても、神をはなれ、神に敵対しているものはついには滅ぼされてしまうのです。これは歴史の終末におこる大事件です。ダニエルは、「秘密をあらわすひとリの神が天におられます」(ダニエル書2章28節)といい「その夢はまことであって、この解き明かしは確かです」(ダニエル書2章45節)と結びました。確かにこの預言の大部分は成就しました。くわしいことは西洋史の本をごらんになればわかリます。今や世界は神の国の出現の瀬戸際にきているのです。聖書は私たちがすべての罪を悔い改めて神の国にはいる準備をするようにすすめています。


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